すみ




「眠れないのか?」

心地良い低い声に、成樹は閉じていた目を薄く開いた。

「何でわかったん?」

あぐらをかいている大地の足の上で、成樹が不機嫌そうに口を尖らせる。

「いや、とくに理由はないが…。何となく呼吸がわざとらしかったような気がして…」

理由も根拠もない。大地にしては珍しい、本能的な判断。

自分自身のその判断に戸惑っている大地に、成樹は小さく笑って体の向きを変えた。

「昔」

「…ん?」

成樹の痛んだ金髪をさらさらと撫でながら首を傾げる。

「ガキの頃−−小学校上がるか上がらんかの頃やな。眠ろうてしてるんに眠れへんで、時計の音がやたら気になったことてない?」

そう問われ、大地は記憶の糸を手繰り寄せるが、そんな記憶はない。

「さよか。俺はあんねん。秒針の音がやけにでかく聞こえて、寝付けへんで。したら呼吸の音まで気になって。息を吸って、吸ったら吐いて。意識しとるうちに苦しくなってん」

「苦しく?」

そんな感覚は全くなかったのか、理解不能という表情を大地は浮かべていた。

育つ環境が違うとこうも感覚が違う物なのか。

成樹はその交わらない価値観に、面白そうにクスクスと笑う。

「俺はあってん。このまま起きとけたらなぁって思うこともあったわ」

子供の頃は、もっと純粋に色んなことに興味を持って、一生懸命ボールを追い掛けて。

風祭ではないが、『寝る』という行為さえなければもっとボールを蹴っていられるのに、と思ったこともあった。

「一人で起きとると、色んなこと考えてん。このまま生きていられるんかなぁって」

ふっと、綺麗な横顔が陰った。

「今思えば馬鹿馬鹿しくてしょうがないんやけど、その頃の俺には大きな問題で大慌てやねん」

幼い自分を思い出して苦笑する。

「いつまで生きいられるんかなぁ。いつまで生きていてくれるんかなぁ…って」

誰がとは口にせずに、成樹は目を閉じた。

幼い頃、漠然とそんなことを考えていた。

「今もまだ、『寝る』のはもったいないと思うか?」

「いや、今はそうは思わへんよ。闇も気持ちいい」

「闇?」

「俺、滅多に夢って見らへんねん。いつもそこには闇がある」

成樹の言葉に、大地が僅かに顔をしかめる。

『夢を見ない』ということは、ノンレム睡眠状態。

眠りが、浅いということ。

「闇は気持ちええよ。なんか、ブラックホールに吸い込まれとるみたいで」

それが果たして本音か。

色のない世界を、心地良いと本当に感じれるのか。

それを知る術を、大地は持っていない。

痛んだ金糸の髪を撫でていた手を、成樹の瞼に持っていく。

「もう、いい。疲れてるんだろう?」

成樹の視界を、暗く閉ざす。

「せんの?」

その言葉が何をさしているかに気付いて、大地は小さく溜息を零した。

「俺は、お前とヤるために付き合っているのではない」

掌に当たっていた長いまつげが小さく震えたのがわかった。

そして、至極嬉しそうに口許を綻ばせる。



――一人で起きとると、色んなこと考えてん。このまま生きていられるんかなぁって。

大地は成樹の言葉を思い出した。

――いつまで生きられるんかなぁ。いつまで生きていてくれるんかなぁ…って。



それが母親のことを指していたのは明白だ。

特殊な環境にいた成樹にとって『母親』とは大地には想像もつかないくらい大きい存在なのだろう。

「優しいなぁ、大地は」

幸福そうに大地の名を呼んで、成樹はゆっくりと視界を閉ざした。

自分には、勿体ないくらいの優しさを惜しみなく与えてくれる。

それが、ひどく心地よくて。

「おやすみ」

成樹は呟くようにそう言うと、疲れた体と思考を手放した。

今度こそ自然な、規則正しい呼吸音が聞こえる。

そっと目許から手を外すと、キレイに整った、少し幼い寝顔が姿をあらわす。

その幸せそうな寝顔に、大地は少しだけ口許を綻ばせた。

「おやすみ、成樹」

彼には届かない優しい声を、大地は落とした。





















toy’s factoryの海響様からのGETさせていただきました!
600Hitを踏めたのをいい事に、遠慮なくリクエストをして頂いた素敵な作品!
もう!超絶素敵な不破シゲを本当に有り難う御座いました!
名前で呼ばれると何故こんなに優しい気持ちになれるんだろうと思います。
柔らかい雰囲気の2人が互いに呼び合う名前の中にそれを感じて何だか温かくなります。
心と体の生きる糧をどうも有り難う御座いました!!
これからも仲良くしてくださいw