quiet




温かくて、居心地のいい、まるで、真綿に包まれたような。




ぼんやりと視界に入って来たのは真っ白な壁紙と、本棚と、机。

焦点が合わない世界を二、三度瞬きしてクリアにすると時計の秒針の音を鼓膜が拾った。

「……ん…」

起き上がろうと僅かに力を込めたところで、身動きが取れない。

見ると、自分のものではない背後から伸びる腕。

自由になる首で振り返ると、後ろから自分を抱きしめたまま眠る不破がいた。

起こしてしまうのを覚悟で向き直って見たものの、不破に起きる気配はない。

(めずらし)

一応気は使ったが、いつもなら起きてもおかしくない振動に気付かないくらい熟睡しているらしい。

目を閉じ寝息を立てるその姿は、普段の彼よりも若干幼く見えて、好き、だったりする。

しばらく見ていると不意に触れたくなって、その前髪に手を伸ばした。

最初に触れた時はもう少し硬いイメージがあったこの髪質が、思ったより手に馴染むことも、もう知っている。

そのままそっと掌で頬に触れて、指先で口元をなぞる。

柔らかな感触を楽しんで、そのまま首筋を伝い、襟元から覗く鎖骨に触れた。

ひとつひとつを確かめるように、ゆっくりと。

伝わる熱を一つずつ覚えるように。



こんなふうに触れてみて初めて、不破が自分に触れる気持ちが分かった気がした。

目の前にある存在を、何度でも確かめたくて。

ただ無意識に、純粋に、それを感じたいという衝動。

触れていい存在なのだと、触れたくなる存在なのだと、無意識に理解する。

時間を掛けて、好きなだけ触れてしまえばもちろん満足はするけれど。

それは、一度満たされればもう必要ないものじゃないから。

いくらでも欲張りになってしまう。

もっと触れていたい。

傍に、いたい。


不破の胸元に顔を埋める。

温かい体温と心臓の音に、目を閉じた。


ぎゅ、と抱き寄せられたのは、目を閉じてすぐだった。

「っ」

驚いて一瞬思考が止まる。

そっと髪を撫でる不破の手に、今までの自分の行動を思い出して一瞬で顔が熱くなる。

「いつから起きてん」

混乱から思わず拗ねたような声が出てしまった。

どもらなかっただけ自分を褒めたい。

(最初から?いや、眠ってたし。ほな途中からか?…待て、そんな事よりいつの間に狸寝入りなんて覚えたんやコイツ)

ぐるぐると考え込む思考の渦に巻き込まれる中、再び髪を撫でられる。

「眠れないのか?」

尋ねる不破の声が、頭上から落ちた。

顔が見えない分、声で感情が手に取る様に伝わる。

からかうでもなく、苦笑でも、嫌悪でもなく。

ただ穏やかな声が、耳をくすぐる。

もそりと顔を出すと、やや目線の高い位置で不破がこちらを見ていた。

「……寒い」

見上げる位置の不破にやや甘えを含んだ声を運ぶと、髪を撫でていた不破の手が頬を包み込んだ。

数分前に自分の指先で触れた不破の唇が、自分のそれと重なる。

深く。

優しく。

「…ふ、っん…」

熱を分け与えるように。

寒い、なんてその場しのぎの照れ隠しを見抜かれてないなんて思ってはいないけれど。

頬に触れる手が、温かくて。もっと触れていて欲しくて。

自分の手を、そっと重ねた。



唇が離れ、最後にもう一度触れるだけのキスをして再び抱きしめられた腕の中は、やっぱり温かくて、優しい。

少しのくすぐったさと、それ以上に満たされた心を持て余して、安堵の息をつき、目を閉じた。





















*****2011/12/11
あぶない。皆既月食のせいでどこまでいくかちょっと心配でした。ちゃんと止まってくれてよかった(笑)
そんなわけで、不破シゲの日です。甘いです。温いです。シゲが大地大好きです。
相変わらずの残念クオリティですが、お誕生日のトーコ様へ献上いたします。
ぬるくてごめんなさい。お誕生日おめでとうございますー!!!!だいすき!