together




「佐藤、帰らないのか?」

耳馴染んだ穏やかな声に、意識が覚醒した。

目を開けると、柔らかな紅色の陽が教室に差し込み、長い影を作っている。

その影の先をゆっくりと目で追うと視界に入る、綺麗に洗われた上靴。

対象をその上靴へ移行してそのまま見上げていくと。

「…おはようさん」

自分の顔が、自然と綻んだ。

「こんな場所で寝ると体を冷やすだろう」

「んー…」

「特に喉を冷やすと口や鼻から病原菌が体内に侵入し発熱や頭痛を伴う上気道の炎症を引き起こしやすくなる」

「…要するに?」

「風邪を引くから避けた方がいい」

「あ、それ、シンプルで分かり易いわ」

寝起きで上手く回らない頭の所為か、のんびりとした口調になる。

くすくすと笑っていると、ふわりと、首にマフラーが掛けられた。

首元に、先程までの持ち主の体温と、匂いが、伝わる。

「ええの?」

マフラーに手を掛けて見上げれば、大きな不破の手が、優しく髪を撫でた。

ああ、と頷くその表情は、柔らかいもので。

「おおきに。暖かいわ」

感謝を込めて笑み、机の横に掛けたバックを片手にゆっくりと立ち上がる。

「もう帰るんなら一緒に帰ろ?」

「そのつもりだ」





まだそう遅くはない時間のはずだが、辺りは既に薄暗い。

街灯と通り過ぎる家々から漏れる光のみが足元を照らす道。

いつの間にか繋いでいた手もそのままに、留めない話で盛り上がって。

気がつけばいつもの分かれ道。

「ほなな」

「ああ」

別れ際は、互いにいつも口数が減る。

繋いだ手をそっと離して、一度だけ笑んで。

それから、それぞれの自宅へと歩き出す。

振り返ることは、滅多に無い。

でも。

「あ…」

首元が冷えないようにと、不破に掛けられたままのマフラーを思い出す。

「不破っ」

持ち主へと返すために首から外すと、今まであった温もりと匂いが、首筋から消えた。

少し名残惜しいけれど、不破もずっと寒かった筈だ。

当たり前のようにさり気なく、いつもそんな優しさを預けてくれる不破だから。

その優しさにしっかり甘えてしまっている自分に苦笑した。

「マフラー。忘れるとこやったわ」

振り返った不破にマフラーを掛ける。

が、その手を逆に掴まれてしまった。

「?」

「俺はいい。家までして行け」

「何でー、寒いやろー?」

「寒いと分かっていてコートすら持ってきていないのは誰だ」

「…シゲちゃんです」

そうやなぁ、そろそろ買わなあかんなー、でも金無いしなぁ、と苦笑する。

不破はもう一度マフラーを首に掛けてよこした。

「それまでは持っていていい」

ふと笑んだ不破に、思わず見とれてしまう自分が、いた。

「っ…お、きに」



首元が温かい。

頬が、熱い。



「…なあ不破、今日なんか予定ある?」

「いや」

「久々に、お邪魔したいなぁ…思て」



珍しく瞠目した不破が、やがて穏やかな表情になり。

「ああ」

再び繋がる、暖かな手のひらと、指。





もう少しだけ、君の隣に。



一緒に、いたいから。



















*****2006/12/31
大地誕生日ネタでも大晦日ネタでは全く無いです、普通の日、笑。
いつもいつも薄着で風邪をひくんじゃないかと思わされる佐藤君にいつもハラハラの大地お母さんです。
大地のバースデーに特別なことをしてあげられなくて申し訳ない!
愛だけは無限大に!ええもう底無し沼のように!笑。
これからも仲良しな2人でいてください!ハピバ大地!!